冬だけの小さなコンサート
田畑が雪化粧をまとう頃にだけふれられる、お気に入りの楽器があります。
早朝・日々の清掃を行う足元でその楽器は、さくさく、さくさくと小気味よい音色を奏でてくれます。勢いをつけすぎると、踏んだ瞬間滑りそうになるのが玉に瑕ですね。
さくさく、さっさっ。
箒を操り境内での演奏をひと通り終えたら、上御茶屋・下御茶屋と林丘寺とを結ぶ園路へ。
お寺の周辺を丁寧に掃き清めていきます。
今でこそ松並木のある立派な園路ですが、後水尾上皇が修学院離宮を造営なさった当初はツクシが顔をのぞかせるあぜ道でした。
周辺の田畑との境界に垣根もなく、1日の仕事を終えた農夫が後水尾上皇とあぜ道でバッタリ出くわすことさえあったそうです。そんな予想外の出来事も上皇は楽しみ、和歌にしたためていらっしゃったとか。
連絡通路を整備しなかった背景には「耕作をする人々の姿も修学院離宮を構成する自然景観に取りこみたい」という上皇の理想があったと伝えられているのですが……、
農夫さんや護衛の方は、「心臓に悪いからせめて生け垣を作りませんか」と奏上したかったに違いありません。